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TOP : 札幌学院大学選書『子どもの熟慮性の発達」が発刊されました。
投稿日時: 2012-04-24 09:38:11

「札幌学院大学選書」は、本学教員が執筆した研究成果を広く社会に広め、学術文化の発展に寄与することを目的に1989年より刊行されており、これまでに13冊の著書を世に送っています。このたび、2011年度「札幌学院大学選書」として本学人文学部臼井 博教授が執筆した上記著書が発刊されました。

この新著に関して臼井教授から次のコメントをいただきました。

 「急いては事をし損じる」という諺に対して、「石橋をたたいて渡る」という諺もある。拙速に行動するのは賢明ではないが、ぐずぐずしていてはチャンスを逃してしまう。当然ながら、私たちはスピーディに事に対処し、しかも適切、正確にこれを遂行しようとする。だが、この二つの目標は背反、矛盾関係にある。つまり、急ぐと間違いを犯しやすいし、正確第一に対処すると遅きに失するかも知れない。このように「こちらを立てるとあちらが立たず」のような二つの目標が二律背反の状況を「トレードオフ」と呼ぶが、現実の私たちが日常生活で何かを判断したり、決定する時にしばしば遭遇する事態である。 

 本書のテーマの「熟慮性・衝動性」とはこのトレードオフの個人差に焦点を当てたものである。時間をかけると誰でも答えは見つかるが、それほど難しい問題でもないのでぐずぐずしてはまわりの人から自分の能力を低く評価される、そんな課題に直面してどのような反応をするのかを扱ったものである。幼児期から学童期の発達を見ると、多少の時間を犠牲にしても正確な反応を重視する取り組みの傾向性が増加する。言葉を換えると熟慮的に行動するようになっていく。ただ、興味深いことは小学校の入学にともない急激な熟慮化への変化が見られること、そして比較文化的な研究から日本の子どもの熟慮性の発達の早熟傾向が顕著であることである。だが、現実には該当するデータが乏しく、利用可能なデータにおいても方法論上の限界が強かったのである。さらに、もっと重要なことは、この発達的変化のメカニズムを明らかにするデータが欠落していた。

 こうした問題意識のもとに、本書では研究方法の改善とミッシングリンクをつなぐデータの収集により、幼児期から小学校高学年までの児童を対象にして幼稚園期から小学校入学にかけての発達的な変化を縦断的なデータにより明らかにした。加えて、その変化のメカニズムを子どもの認知発達と幼稚園と小学校の学校文化の両面から検討を行った。

 なお、私はおよそ10年前に学校文化の日米比較からこの問題のアプローチを行った(『アメリカの学校文化 日本の学校文化』金子書房, 2001)が、本書はそこでの考察を裏づけるデータを提供したものでもある。


 このたび、札幌学院大学選書として出版助成を受けて、本書の出版が可能になった。赴任から日の浅い私に対してこうした機会を与えてくださった札幌学院大学に対して心よりお礼を申し上げる次第である。



著書の表紙イメージ